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「MR2」エンジニアの熱意を感じる画期的なミッドシップ・スポーツカー/小川フミオ【リレー連載:記憶に残るトヨタ】
私にとって強く記憶に残っているトヨタ車は「MR2」(AW10/11)。1984年に登場した初代が、とりわけ印象的だ。
「Midship Runabout 2 seater(ミッドシップ方式の2人乗り小型車)」が車名の由来と説明されるこのモデルは、「日本の小型乗用車として、初のミッドシップエンジン車」とトヨタ自動車がいう、画期的なコンセプトだった。
モータージャーナリストをはじめ、クルマにかかわる人たちなら、誰しも記憶に残るトヨタ車があるもの。当シリーズは、それぞれの思い出に残る1台のトヨタ車に焦点を当て、振り返っていくリレー連載。
※記事公開時の情報に基づいており、最新でない情報が含まれる場合もあります。最新の情報については各公式サイトなどでご確認ください
「時代遅れになりそう」と思ったが
画期的なコンセプトのMR2は、デザインも特徴的だった。ウェッジシェイプ(くさび形)のプロファイル(シルエット)はスポーティ。リトラクタブル・ヘッドランプ(格納式ヘッドランプ)は当時スポーツカーデザインの定番ともいえるものだが、ノーズが低く見えてカッコよかった。
キャビンは純粋な2人乗り。一方、設計者はあえてリアクォーターウインドウ(後方の小窓)を設けることで、斜め後方の視界を確保。

トヨタ流の安全思想だろう。フェラーリもポルシェも、斜め後方視界の確保はサーキットで速く走るための定石と心得ていた。
MR2はサーキット向けの車両でなかったけれど、欧州のスポーツカーとどこかつながっているように感じられたのがよかった。
ただ……ウェッジシェイプのデザインをせっかく採用するなら、もっと質感を高めて、欧州のライバルに肩を並べてほしい、と私には思えた。

5年後の89年に発表された第2世代MR2(SW20)は、ボディ各所に強くアール(曲率)がかけられ、ぐっと洗練度が高まった。
でも、いまの目には、ウェッジシェイプの初代MR2のデザインがやけに魅力的に見える。
類似コンセプト「ポンティアック・フィエロ」の存在
内容的には、カローラの部品を使い、比較的こなれた価格(143.5万円〜198.1万円)と、乗りやすさが追求されていた。
そもそも、スポーツカーを軽い気持ちで通勤にも乗ってもらおう、というのがコンセプトだ。
それでも、トヨタ初の小型ミッドシップを開発したエンジニアの熱意みたいなものが、ウェッジシェイプのスタイルから伝わってくる。
そこが、いま見て「いいなぁ」と感じられる理由なのだろう、と私は考えている。
MR2の開発に踏み切った背景はいかなるものだろう。
GM(ゼネラルモーターズ)がポンティアック『フィエロ』をもって、“スポーティコミューター”という新しい需要を喚起しようとしたことに呼応して開発した
これは、トヨタが自社の歴史的製品の解説をしているサイトからの引用。
フィエロは、そこで書かれているように、ゼネラルモーターズ系列のポンティアック(2010年に親会社の経営合理化によって消滅)ディビジョンで開発されたコンパクトなスポーツモデルだ。
2.4m弱のホイールベースに全長およそ4mの車体を載せ、エンジンはミッドシップ。GMとしては画期的なコンセプトだった。

シボレー「コルベット」とシェアを奪い合うのでは、という懸念もグループ内にあったようだ。
それに対して開発部門は、コミューター(通勤に使えるクルマ)としての側面を強化することで、新しい市場の開拓ができる、と説いたという。
この推進派の主張が懐疑派を押し切った。そして、83年にショーで発表され、84年に発売された。
懐疑派の心配のとおり、それほどパワーの出ない2.5リッター4気筒と1.2トンの車体の組み合わせは、外観のイメージとそぐわず、プロの評価は高くなかった。が、セールスは好調だったようだ。
米国でも話題となった功績
トヨタがフィエロの成功を、それどころか発表されたばかりの車両を見てMR2の開発に踏み切ったと考えると、時間的なつじつまが合いにくい。
開発に時間をかけていた当時の自動車界の“常識”からすると、フィエロの計画が立ち上がった78年頃から、なんらかの情報を共有したのかもしれない、と考えられる。
そこはおいといて、競合商品が生まれると新しい市場が生まれる、という事実もある。
フィエロと、それに続くようにMR2が登場したことで、小型ミッドシップカーが日米で話題になったのは事実だ。
トヨタがMR2の市場として重視していた米国などでは、車名の「MR」を「Mr.(ミスター)」に見立てて、「ミスターツー」とも呼ばれた。
MR2がいまも私の記憶に強く残っている理由は、やはりコンセプトが一番だ。
なお、同時期には次のようなトヨタ車が発売されていた。
- 前輪駆動化された新型「スターレット」(84年発売)
- 前輪駆動化された新型「カローラ」シリーズ(83年発売)
- スポーティクーペ「カローラレビン/スプリンタートレノ」(83年発売)
- ハッチバックが新鮮だった「カローラFX」(84年発売)
- 前輪駆動化でパッケージングがよい「カリーナFF」(84年発売)
- ファストバックで広い「FFコロナ」(83年発売)
- 「ハイソカー」の先鞭をつけた「マークII」シリーズ(84年発売)
- 豪華な4ドアハードトップ設定の「クラウン第7世代」(83年発売)
- 若者市場向け「ハイラックスサーフ」(84年発売)
さらに、「ソアラ」もあれば、「セリカ」や「セリカXX」もありと、コンパクトからラグジュアリー、そしてスポーツまで。80年代は、トヨタ・ラインナップの多様化がどんどん進んだ時代である。
昨今のように市場調査偏重でなく、ひょっとしたら市場でウケるかもしれない、と製品主体の「プロダクトアウト」で企画された(と思しき)クルマも多かった。
視野をすこし拡げてみると、ホンダ「シティ」(81年)や、ソニー「ウォークマン」(79年)など、発売されて初めて“これが欲しかった”と思えるプロダクトが当時は多かった。
アップルがパーソナルユース向けに開発したコンピューター「マッキントッシュ」(84年)だって、開発者の情熱の産物だ。
MR2は青天の霹靂のように登場し、クルマ好きにうれしい驚きを与えてくれたのだ。
いま乗ればきっと「心躍る」はず
初代MR2のエンジンは、カローラと共用の1.5リッターSOHC(3A-LU)と、レビン/トレノと共用の1.6リッターDOHC16バルブ(4A-GELU)の2種類。
車重が900kg台だったので、1.5リッターでも期待以上に軽快に走ってくれた。1.6リッターはむしろ速すぎるほどで、カーブを曲がるとき緊張した記憶がある。
86年には、さらに高性能の「レーザーαツインカム16バルブ」とも呼ばれる、スーパーチャージャー搭載の1.6リッターDOHCエンジン(4A-GZE)を載せた。
このときサスペンションを含めて改良が施され、スポーツカーとしての性格が強くなっていった。

個人的にはこの頃の、米国的なTバールーフ(ルーフの一部だけ取り外せる“安全”オープン仕様)や、2色の車体塗り分けスキームが好きになれなかった。
初代の乗り心地は硬めで、シフトは硬くて、手首の動きだけで吸い込まれるように入る欧州のスポーツカーのようにはいかず……と、当時はそんな不満を感じたものだ。
でも、いま乗れれば、軽量車体のミッドシップカーとして、おそらくかなり楽しめるだろう、と思う。
インテリアのデザインも機能性重視であるものの、適度にエモーショナル。シートの形状もスポーティで好ましい。
乗るたびに、心躍るような体験が味わえるのではないかな、といまならそう思う。
競合に打ち勝ち約10万台を販売
そういえば、先に触れたポンティアック・フィエロは、初期の84年型でワイヤハーネスが排気管に触れて火災が発生する事故が、300件以上も起きた。
GMはすぐに全車両のリコールで対応し、85年型ではいち早く対策を講じていたことを発表。しかし、販売へのダメージは大きく、燃えるクルマというイメージがフィエロの短いモデルライフの原因となった。
MR2は、競合のそんな状況を尻目に着実に販売成績を伸ばし、89年までに米国とカナダで約10万台を販売したのだった。
初代MR2はさまざまな思い出を私に残してくれたのである。
<トヨタMR2 1600G Limited>
ボディサイズ:全長3,925mm×全幅1,665mm×全高1,250mm
ホイールベース:2,320mm
エンジン:1,587cc直列4気筒DOHC16バルブ
最高出力(グロス):130ps/6,600rpm
最大トルク:15.2kgm/5,200rpm
レイアウト:ミッドシップ/後輪駆動
車重:950kg
(文:小川フミオ 企画・編集:木谷宗義/type-e 写真:トヨタ自動車)
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