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再び注目される「ドライブインシアター」を大迫力で楽しむ音質調整のコツ
アフターコロナやウィズコロナ時代のエンターテインメントとして、クルマの中で大迫力の映画を楽しめる「ドライブインシアター」に再び脚光が。プライベート空間でソーシャルディスタンスを保ちながら映画を楽しめると、全国の大規模商業施設の駐車場などで相次いで開催されています。
その仕組みは、フロントガラス越しに大型のスクリーンを眺め、FM電波を介してカーオーディオから音を出すというもの。でも、せっかく映画を観るならば、できるだけ迫力のあるいい音で楽しみたいですよね。
そこで、さまざまな音響機器に精通するオーディオ&ビジュアルライターの野村ケンジさん(以下、野村さん)にアドバイスをいただき、ドライブインシアターをより楽しむための環境づくりを検証してみました。
<プロフィール>
野村ケンジさん
ポータブルオーディオやホームオーディオなどのAV機器をメインに、専門誌やモノ誌、Web媒体などで幅広く活躍。特にヘッドホン&イヤホンに関しては、年間300以上の製品を10年以上にわたって試聴し続けるなど、深い造詣を持つ。また、TBSテレビ「開運音楽堂」にアドバイザーとして出演、レインボータウンFM「みケらじ!」でメインパーソナリティを務めるなど、幅広いメディアでの活動を行っている。
https://twitter.com/nomurakenji
1990年頃にピークを迎えたドライブインシアター
まずは、ドライブインシアターがどんなものかを、お伝えしておきましょう。クルマの中で映画を楽しむスタイルは、1932年にアメリカで生まれたもの。
国内初のドライブインシアターは、1961年に神奈川県小田原市のトヨペット小田原サービスセンターに設置された「ドライブイン野外劇場」が始まりとされていて、マイカーの普及とともに全国に拡大し、映画鑑賞のスタイルとして定着していました。最盛期の1990年頃には、全国に20カ所ほど常設劇場があったとか。
しかし、2010年に常設としては日本最後となる「ドライブインシアター大磯(神奈川県大磯市)」が閉鎖して以降、全国各地で復活を試みるイベントが開催されていたものの、ドライブインシアターはほとんど消滅してしまいました。それが昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、再び注目を浴びることに。
全国各地で相次いでドライブインシアターイベント開催され、先の大磯市でも、7月に行われた「ドライブインシアター2020 大磯ロングビーチ」で約10年ぶりに復活。海沿いやリゾート地などを中心に、広々としたスペースを活かしたイベントが各地で行われるようになっています。
純正カーナビでも音質向上はできる
さて、ドライブインシアターの会場では、駐車する位置に差はあっても、誰もがスクリーンに映る迫力ある映像を楽しむことができます。ただ、音響はカーオーディオの性能によりけりです。では、より迫力ある音で楽しむには?
野村さんによると、一般的なカーナビに標準で搭載されている機能「DSP(デジタルシグナルプロセッサー)」の設定を変えてみるのが「音響にこだわるための第一歩」だと教えてくれました。
「DSPとは、カーオーディオから流れる音にデジタルエフェクトをかけて、音質を調整する機能のこと。たいていの場合、カーナビの設定から選べますが、低音域や中音域、高音域のバランスや前後スピーカーの音量の配分を任意で変えることができます。より高度な機能としては、例えば、ライブハウスやホールなどの音響を再現できるよう、あらかじめ設定されたパターンから選べる場合もあります」(野村さん)
今回、検証のために準備したトヨタ「C-HR」に搭載されたカロッツェリア製カーナビにも、各音域のバランスを調整する機能(イコライザー)や、前後のスピーカーから流れる音の配分を変更できるフェーダー、さらにあらかじめ各要素のバランスが最適化されたパターンを複数選べる機能(プリセット)が付いていました。
高音は「レベルを下げる」とセリフがクリアに
プリセット機能があるとはいえ、目指すところはドライブインシアター最適チューニング。そうするには「高音から調整するのがコツ」だと、野村さんは話します。
「映画を観ながら調整するのがベストですが、もし以前に設定を操作したことがあるのなら、まずはすべての音域の設定をデフォルト(基準値)に戻します。そして、映画の場合は登場人物のセリフをクリアに聞けることがポイントとなるので、音がこもらないようにするために、高音のレベルを調整してください。音がこもらないようにする、というと高音を上げると思うかもしれませんが、実際のところは高音を下げることになる場合がほとんど。デフォルトの設定ってかなり派手な音になっていることが多く、かえって人の声が聴き取りづらくなっている場合があります。まずは高音を下げて、人の声が違和感なく聴けるポイントを探してみましょう」(野村さん)
実際に、シリアスな場面やアクションシーンが入り乱れる洋画を流して検証してみましたが、高音域のレベルをひとつずつ下げていくと、登場人物たちのセリフがきわだっていくことが実感できました。音質調整というとレベルを上げてしまいがちですが、下げることでクリアにしていく方法があるんですね。
低音は「レベルを上げる」と迫力アップ
続いて調整していきたいのが、低音域のバランスです。レベルをマイナスしていった高音域とは違った調整方法が必要になります。
「低音域は、高音域とは反対にレベルを上げていきます。映像の迫力を感じられるようなポイントを探りながら、迫力が増しつつ音が割れたリに歪んだりしない、聴き心地がよいところを見極めていきましょう。ちなみに、もっと詳細な設定ができるイコライザーが搭載されている場合は、さらに細かい調整が可能です。たとえば中音域は、数値を変えることで声のかわいらしさやクールさなどをもたらすこともある程度は可能ですが、基本的にはあまり大きくは動かさず、高音域と低音域のバランスで音質を変化させていくのがオススメです」(野村さん)
今回の検証で、とりわけ映画の迫力に通じると思ったのは低音域のバランスでした。高音域で登場人物のセリフを強調した上で低音域を上げていくと、鬼気迫る戦闘シーンで足元から地鳴りが響くような低音が聴こえるように。映像により一層のめり込めるような感覚になりました。高音域と低音域を調整するだけで、こんなにも車内で聴く音が変わるとは!
さらなる臨場感を求めるならサブウーファーを追加
ここまで、イコライザーの調整で迫力を出す方法を紹介してきました。「それでもまだまだ…!」という人には、臨場感を高めるサブウーファーの追加がオススメだそう。
「サブウーファーは、低音域のみを出力するスピーカーです。価格はさまざまですが、リーズナブルなものであれば、ネット通販やカー用品店で1万円台から購入できます。低音は指向性がないので、車内のどこに置いてもOK。助手席の下や荷室に設置できるので、内装の脱着といった大きな作業をしなくても取り付けることができます。とはいえ、車内で配線を組む必要があるため、専門店で設置をお願いするのがよいですね」(野村さん)
野村さんは、カーオーディオに対して「最初は純正AVシステムを活かしてどれだけ音質をよくするかを追求するのがオススメ」と言います。その理由は、オーディオは“沼”と例えられるほど奥の深い世界が広がっているから。
「カーナビやオーディオ本体、スピーカーを交換したり、ドアに消音加工(デッドニング)を施したりすれば大幅な音質向上が見込めますが、音の調整が難しく、費用も高額となってしまいます。サブウーファーは、純正オーディオにプラスするだけでよいため、自分で音質調整するのが難しい人にとってもオススメの音質向上策です」(野村さん)
「ポータブルオーディオ+イヤホン」という方法も
最後に、こんな方法も教えてくれました。車内の環境を変えるのではなく、外部機器を持ち込むという方法です。今回、野村さんはFMラジオを受信できるポータブルオーディオプレイヤーを例に挙げてくれました。
「製品数は少なくなりましたが、今もFMラジオチューナーを搭載したポータブルオーディオプレイヤーが市販されています。それを活用して、スクリーンの映像を前に自分の耳元で音声を聴くと迫力ある音が楽しめます。ちなみに、イヤホンやヘッドホンのケーブルがFMの電波を受信するアンテナになるので、有線のイヤホンやヘッドホンを準備するのを忘れないようにしましょう」(野村さん)
野村さんはそのほかのオススメとして、音に合わせて耳元で振動するヘッドホンがあることも教えてくれましたが、普段の通勤などで使っている機器をドライブインシアターでも活用するというのは、目からウロコでした。
新しい生活様式への関心が高まりつつある今、エンターテインメントを楽しむ手段として、ドライブインシアターはさらに広まっていきそうな気配があります。今回、お伝えした方法を参考に、映画館に負けない迫力ある音でドライブインシアターを楽しんでみてください!
取材・文:カネコシュウヘイ 写真:木谷宗義(type-e) 編集:木谷宗義(type-e)+ノオト
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