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夏の温泉旅行で優勝したい人へ。温泉オタクが“推しぬる湯”の素晴らしさをご案内
こんにちは、ながちと申します。普段は東京で会社員をしながら、全国各地の温泉を練り歩く市井の温泉オタクとして活動しています。Twitterやブログで推しの温泉を紹介していまして、2020年11月に著書「女ひとり温泉をサイコーにする53の方法」(幻冬舎)を出版しました。
著書にある53の章の中で、「ぬるい温泉がだいだいだいだい大好きだ」というふざけたタイトルのものを書きました。ぬる湯が本当に好きすぎて、もっとこの素晴らしさが広まって欲しい……と一層熱い思いを込めて。
書き出しは、こんな始まりでした。
“冬の温泉旅行より、夏の温泉旅行のほうが好きです。なぜなら、ぬる湯にずっと浸かれるから。冬はさすがに、ぬるいと体が冷えてしまいます。一時間でも二時間でもずーっと浸かってしまうような、ぬるくて、だらっとした温泉が、たまらんのです。”
ぬる湯、いいですよ。ぬる湯はサイコーです。まだ経験していないのであれば、なんともったいない。「温泉=冬に浸かるもの」という方程式がもし頭の中にあるのであれば、今すぐ「いやいや、温泉は夏もサイコーだ」もインプットしていただきたいです。
今回、「夏の温泉旅行」をテーマにKINTOさんから執筆のご依頼をいただいたとき、真っ先にテーマとしてぬる湯を挙げました。企画はとんとん拍子に進み、私がずっと狙っていたけれど行けていなかった“東海のサイコーぬる湯”、三重県の榊原温泉にある「湯元榊原舘」をレポートさせていただけることに。
この取材旅行のおかげで、温泉オタクはもちろん、ひとり温泉旅ビギナーにもおすすめできる素晴らしい名湯に出会えました。今回は私の“ぬる湯愛”をあますことなくこの記事でお届けできればと思います。
まずはぬる湯の素晴らしさを語らせてください
湯元榊原舘へ向かう写真をちりばめながら、ぬる湯を紹介していきます。
人により感じ方はさまざまですが、体温に近い34〜37℃の湯に浸かることを「不感温浴」といい、熱くも冷たくも感じず長湯できる温度とされています。これがいわゆる“ぬる湯”。このぐらいの温度であれば、春夏秋冬いつでものんびり浸かれます。秋冬も「冷たすぎて入れない」ということもありません。
暑い夏は、もう一段階下の「冷温浴」を試してみるのも手。25〜34℃ぐらいの温度で、いわゆる“冷泉”と呼ばれるような、冷たさを感じる温泉に浸かるのも気持ちいい季節です。今回ご紹介する榊原温泉の湯も、源泉温度31.2℃と、比較的冷たいほうのぬる湯です。

熱い湯船に浸かると、体全体に熱が行き渡るようなじわじわ感を感じますが、ぬる湯にそんな刺激はありません。歯応えのない冷たさを感じた後、次第に体がぬるい温度に慣れ、湯と肌に境目のない入浴が続きます。
この緊張感のない温泉で、心身がとろけること、とろけること。ぼーっとしていたらあっという間に数十分経ってしまいます。テレビも見ず、仕事もせず、スマホもいじらず、ただただじーっと温泉に浸かるあの時間は、贅沢で退屈で、なんとも素晴らしい体験です。

ぬる湯のある温泉施設には、加温されている湯船が隣に置かれているところもあります。ぬる湯湯船と加温湯船を交互に浸かれば、サウナと似たような“ととのう”感覚が得られるはず。サウナよりも温度差がないため、心身に負担をかけることなく交互浴が楽しめます。私自身もサウナは好きではあるものの、水風呂にどうしても慣れず、いつもキューッと体を縮こませてなんとか浸かっています。あの水風呂の苦しさが、ぬる湯にはないのが大きな魅力です。

今回取材先に三重県の榊原温泉を選んだのは、10年ほど前に、榊原温泉からほど近い「猪の倉温泉」に寄ったことを思い出したからでした。当時まだまだ温泉ビギナーだった私は、猪の倉温泉のトロトロな浴感に感激。「こんな温泉があるなんて!」と、温泉の奥深さを肌で感じた思い出深い場所なのです。
榊原温泉は、そのトロトロ浴感に加えて、さらに源泉温度が低いぬる湯でもあると聞いていました。もうぜひに行きたい……と思っていましたが、月日が長らく経ってしまい……。
東京からだと微妙に行きにくいのでは?と思っていた三重県ですが、いざ訪れてみると、所要時間は4時間ほど。東京発でいえば、群馬や栃木の奥の方へ行くのとさほど変わらない時間で着けることが分かりました。
つまり、10年越しの、満を持しての榊原温泉訪問です。

電車をいくつか乗り継いで、ようやっと榊原温泉に到着しました。湯元榊原舘のスタッフさんの送迎車に乗せていただき、いざ温泉街へ向かいます。
1500年前から“湯ごり”の地、湯治場として栄えてきた榊原温泉へ
榊原温泉は、京の都から伊勢神宮への通過点であることから、お参り前に身を清める“湯ごり”(湯垢離)の地として親しまれてきました。清少納言とのゆかりも深く、「枕草子」では「湯は七栗の湯 有馬の湯 玉造の湯」と讃えられ、この「七栗の湯」が現在の榊原温泉だとされています。
1500年もの歴史を持つ榊原温泉は、現在も伊勢神宮と合わせて訪れるお客さんでにぎわっています。地理的にも伊勢神宮から一番近い温泉地で、その距離は車で1時間ほど。近年は観光メインではない“おこもり”旅をする方も多く、宿でゆっくり過ごす方が増えてきたそう。
榊原温泉の中心地を訪れてみると、旅館や日帰り温泉施設が点在しているのみで、確かにのんびり落ち着いて過ごすのが似合う印象でした。徒歩で回れる距離には、歴史ある寺社や城跡、自然歩道があります。

スタッフさんに周囲をご案内いただきながら、湯元榊原舘に到着しました。


エントランスをくぐると、華やかなえんじ色の絨毯(じゅうたん)が一面敷かれていて、とても上品な雰囲気に満ちていました。まずは受付でチェックイン。コロナ対策で客室への案内を控えているとのことで、しっかりとここで説明を聞きます。
そしてこの美しいロビーでいただくのは、ウェルカムドリンクの抹茶とお菓子。長旅の疲れも一瞬で忘れてしまうような、おもてなしの非日常さがうれしい。苦くてコクの深い抹茶がめちゃくちゃ美味しかったです。

客室に入ると、まず驚くのが窓の大きさ。山里に面しており、緑のコントラストはずっと見ていたくなるほどの迫力でした。コロナ対策のためすでに布団が敷かれていて、チェックアウトまでスタッフは部屋に入らないというオペレーションも安心です。
寝室の隣には広縁らしいくつろぎスペースもあり、ひとりにはもったいないぐらいのゆったり感でした。

トロツルな絶品肌触り&甘いたまご臭な源泉かけ流しぬる湯、最高すぎる
チェックインも済んだので、いざ、お目当ての温泉へ。
湯元榊原舘の大きな特徴は、日帰り温泉施設「湯の庄」が併設されていること。大浴場は日帰りのお客さんと共通のため、かなり広々と設計されています。駐車場にも三重ナンバーがずらりと並んでおり、地元での人気の高さが伺えました。
日帰りの営業時間は9時〜20時で、宿泊客は6時〜23時に利用可能。朝イチと夜遅めの時間帯は、宿泊客のみが利用できるようです。

まず感動したのは、シャワー・カランの全てからも温泉が出ていること。あますことなく源泉が活用されていて、湯量が豊富な宿ならではの贅沢を堪能できます。すでにシャワーからとろっとした肌触りのよさを感じられますが……体を慣らすためにひとまず加温湯船にざぶんと浸かってみました。
いやもう〜〜、最高。優勝。
甘くてやわらかいたまご臭。トロトロツルツルの浴感は、いつまでも体全体をなで、なじませたくなるような心地よさ。だばだばと湯船から湯が溢れていて、フレッシュすぎるオーバーフロー。湯船の青いタイルからは清潔感が感じられます。

体が十分なじんだところで、源泉湯船へそろりと浸かってみます……。

もう本当に最高(2度目)。
最初はちょっと冷たい。だけどすぐ体になじんでいき、寒気を感じることもなく、延々と浸かっていられるほどの気持ちよさで全身が満たされます。ふわっと浮いたり沈んだり、体をいろいろと動かしたり、時にはぼーっと窓の向こうの空を眺めたり、溢れ出ていく湯の流れを見つめたり。永遠とも思えるぬる湯体験がここにはありました。
泉質は「アルカリ性単純温泉」で、先述の通り、源泉温度は31.2℃。温泉自体は比較的軽めな成分で構成されていますが、加温湯船より濃いたまごのにおいとトロツル感で、オタクも思わずにやける素晴らしさです。
湯元榊原舘の公式サイトでは、「まろみ源泉」と表現されるこの湯。たしかに、このとろやかさ、体を包み込むやさしさは、“まろみ”と呼ぶのがぴったりかもしれません。



十分にぬる湯源泉を堪能したら、加温された露天風呂へ。湯上がりの体にはぺったりと温泉がまとわりついていて、テカテカしていました。
加温はちょっと熱さを感じる41~42度設定。源泉との交互浴にぴったりです。露天風呂は屋根でしっかり覆われており、雨のシーズンも安心して楽しめるのが◎。

ちなみに榊原温泉の中で、湯元榊原舘は唯一自家源泉を所有されています。つまり、温泉がとても新鮮なまま湯船に注がれるため、オタクにとって非常にうれしい状態なんです。どの湯船の温泉もとっても素晴らしくて納得でした。


温泉好きをさらに喜ばせる、オリジナルアメニティと貸切風呂と飲泉所
この湯元榊原舘のすばらしさは、広くて新鮮な温泉が注がれている大浴場だけではありません。ポテンシャルの高いこの源泉を最大限活用した設備やグッズがとにかく魅力的でした。
まず、オリジナルアメニティ。シャンプー、コンディショナー、ボディーソープはすべて旅館オリジナル。大浴場に設置されているので、日帰り入浴の方でも利用できます。温泉水を活用したこのアメニティは、普段使いしたくなるほどの高品質なものでした。
私は旅行する時、普段自分が使っているものをミニボトルで持ち込むタイプなのですが、このときばかりはもう、オリジナルのアメニティを全部フル活用させてもらいました。髪の毛もお肌もうるおいで満たされちゃって、もううれしすぎます。

さらに、化粧水や乳液など、オリジナルスキンケア商品も貸し出し可能。スプレータイプで使いやすく、とろっとしたテクスチャーで、源泉そのものの肌触りを彷彿とさせました。地元の化粧品メーカーと協業しているそうで、安心して使えます。売店で販売されているので、気に入ったらお土産に買って帰るのも◎。

館内には貸切風呂が3つあり、それぞれのニーズに合わせて選ぶことができます。高齢のご家族や小さなお子さんと訪れる方、パートナーとふたりでゆっくり浸かりたい方などにぴったり。1回50分3,300円(税込)で、いずれも開放感あふれるロケーションでした。



さらにさらに、湯元榊原舘では自家源泉の利を活かして、新鮮な状態の温泉を飲める「飲泉所」が大浴場の近くに設えてあります。この飲泉所のすぐ下で、源泉が湧いているのだとか。

さまざまな飲泉を経験してきた私にとっては、かなり美味しい部類のひとつでした。スタッフさんいわく「ゆでたまごの煮汁のような味」。たしかに、温泉で感じたたまご臭をより強く感じます。1回50mlまでとの注意書きがあり、泣く泣くおかわりを我慢したほど飲みやすかったです。
野菜中心のヘルシーな料理もいただき、体よろこぶひとときに
夕食・朝食ともにお食事処でいただきます。広々としていて、スタッフさんも多く、スムーズなオペレーションでとても気持ちよく過ごせました。
まずは夕食のご紹介から。

食前酒の「梅酒の湯禊水(とけいすい)割り」をはじめに、温泉水を活用したメニューがところどころに出てきます。この旅館ならではの食事体験がかなうのもうれしいポイント。
メニューは野菜中心で、看板料理は温泉水を使った温泉野菜蒸し。彩り豊かな季節の野菜が土鍋に敷き詰められており、こだわりの醤(ひしお)や真珠塩、特製だれなどとともにいただきます。これがもうジューシーで柔らかくて甘くて、なんと美味しいこと。慢性的な野菜不足である私にとっては、本当にありがたいごちそうでした。

日本酒、ビール、ワイン、焼酎、果実酒などなど、お酒のメニューもとても豊富でした。私がオーダーしたのは、湯元榊原舘オリジナルの冷酒「榊の雫」。割水に源泉を使用しているだけでなく、そもそも湯元榊原舘で栽培している酒米でつくったそうです。飲まずにはいられません。

かんぱちやまぐろなどのお造り、肉料理も十分にいただいたところで、〆の飯物へ。ちりめんじゃこ御飯にも自家製のお米・イセヒカリを使っていて、最後まで“ならでは”を堪能できました。夜食用にこの御飯のおにぎりを持ち帰れたのもうれしい。

そしてそして、食後のブレンド茶がびっくりするほど美味しかったなあ。
かぶせ茶・ほうじ茶・玄米茶・ラベンダー茶から選べて、お好みでブレンドを楽しめます。おすすめのレシピに沿って作ってみたらもう、絶品。鮮やかなグリーンは見目麗しく、淹れたての豊かなお茶の香りは癒やしの極み。こんなにたくさん飲めるかな?と思うほどの大きなポットも、あっという間に空になってしまいました。

朝食は種類豊富なおかずと湯豆腐、そしてお米の種類が選べました。お粥好きの私は、野性味のある古代米粥をチョイス。とても胃にやさしいラインアップでした。


客室・温泉・食事と、大満足だった1泊2日の滞在。優しいスタッフの皆さまに見守られながら、じっくり楽しむことができました。
お食事処で周りを見渡すと、私と同じようなひとり客の方もいれば、小さなお子さんを連れたファミリー客もおり、客層の広さを感じました。ひとり客が肩身の狭い思いをすることはなく、それぞれが自由に過ごせる広々とした空間の使い方がされているところが素晴らしかったです。ひとり旅ビギナーにも、温泉オタクにもおすすめできる名宿でした。
夏の温泉旅行で訪れたいぬる湯、まだまだあります
今回は榊原温泉 湯元榊原舘をメインに紹介しましたが、ぬる湯のおすすめはここだけではありません。
例えば、私が前回のKINTOマガジンで紹介した長野県・高峰温泉も、ぬる湯温泉のひとつ。白く濁った33℃の源泉湯船は、見た目も浴感も素晴らしい名湯でした。
▶ドライブ大好き温泉オタク、標高2000mの秘湯「高峰温泉」を満喫してきた
そのほかにも、
・東京から上越新幹線でサクッと行けるアクセスの良さがうれしい栃尾又温泉 自在館(新潟)
・渓谷ビューが美しく、ケーブルカーで露天風呂へ向かう冒険要素も楽しい祖谷温泉(徳島)
・湯船の底から源泉が湧き出ているフレッシュな“霊泉”、谷地温泉(青森)
などなど、推しぬる湯は枚挙にいとまがありません。ぬる湯を紹介する書籍や記事もたくさん出回っているので、まずはお近くのところへ出かけてみては。
最後に、ぬる湯への愛をもう少しだけ……!
ぬる湯の素晴らしさは、「そのままを選び取った姿」にあります。
通常、心地よいとされている湯船の温度は40~42℃ぐらいで、ぬるいままのお湯ではお客さんから「温まらない」「もっと熱くして」とクレームを入れられてしまう可能性もあるもの。
しかし旅館や施設のスタッフさんたちが、「ぬるいままが気持ちいいはずだ」と信じてくれ、加温せずにそのままで注いでくれているのが、ぬる湯が存在している所以です。
そのスタッフさんたちの心意気に、私たち温泉オタクは感服するばかり。どうかぬるいままで続けていてほしいと願っています。
ぜひぜひ、この夏はぬる湯に浸かってみてください。後悔させません!

Twitter:@onsen_nagachi
編集:はてな編集部
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