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年間200店以上パン屋を訪問するブレッドギークが推す!一度は食べて欲しい「あんぱん」がうまい地方パン屋さん5店
「KINTOマガジン」をご覧のみなさん、はじめまして。「パンラボ」の池田と申します。
毎日パンを食べつづけ、年間200軒以上のパン屋さんを10年以上にわたって訪問するブレッドギーク(パンオタク)として、雑誌やWEBなどさまざまなメディアでパン屋さんを紹介しております。
僕がここまでパンを愛するのは、1個のパンに起承転結があり、物語が感じられるからです。僕にとってパンを食べることは、そんな「パンがつづる物語」を紐解くことといえます。見た目や手触りからはじまり、香り、口の中であふれる風味、後味に至るまで。そこに作り手の人柄や哲学まで浮かんできます。
「最高のパンはどんなパンですか?」 と聞かれることがありますが、そんなときは「まだ見ぬ次のひとつ」と答えています。まだ食べたことのない新しいパンに出合ったときの、ドキドキが好きなんです。
と、パンのことばかり考えている僕ですが、今回は地方のパン屋さんの魅力からその見つけ方、さらに昔から老若男女に人気の「あんぱん」がおいしいパン屋さんを紹介します。
ドライブや旅行のついでじゃなくとも、わざわざ行く価値のあるお店ばかりですので、今後のお出かけの参考になればと思います。
地方のパン屋さんは魅力がいっぱい
僕は旅行をしても、「パン屋さん以外、どこにも行ってません」みたいなことがしょっちゅうです。その土地土地のパン屋さんを巡ることは、僕にとって観光地を巡るよりもずっと魅力的な旅なのです。
まず、見ず知らずの土地にあるパン屋さんを訪ねると、その地域への理解を深めることができます。その土地から生まれる、小麦をはじめとした「素材」のこと。また、パン屋さんの商品ラインアップは、お客さんの好みに合わせて決まっていく場合が多く、その土地に住む人々の嗜好もうかがい知れます。
さらに個性のあるパン屋さんとの出会いも地方パン屋さん巡りの魅力のひとつです。
東京をはじめとした都心のパン屋さんは、とても高いレベルのお店が多いです。しかし、家賃が高いため個人では出店しにくく、企業経営のお店が多い印象です。
一方、開業ハードルが比較的低い地方では、個人店が多くなります。個人の趣味があふれる個性的なパン屋さんや冒険的なパン屋さんは地方の方が出会いやすいのです。
設備に関しても、地方のパン屋さんならではのモノがあります。代表的なのが薪窯。煙や防火の問題があるため、店舗や住宅がひしめく都心ではむずかしいですが、地方では薪窯が比較的簡単に設置できます。薪窯で焼かれたパンは電気オーブンよりも熱量が高いため小麦の風味が引きだされますし、薪の香りもほのかに感じられる独特の魅力があります。
知らない街で、おいしいパン屋さんとの出会い方
ひと昔前まで、なじみのない街でのおいしいパン屋さん探しは難しかったのですが、最近はInstagramのおかげで探しやすくなりました。僕もよく利用しています。
パンのおいしさはルックスからうかがい知れます。もしも皆さんが「かわいい」「かっこいい」と思ったそのパンは、食べてみる価値があると思うのです。Instagramで検索して、かっこいいパン、映えるパンを見つけたら、そこを旅の目的地にしてみるのも◎。
さて、Instagramでおいしいパン屋さんを探すのには、ちょっとしたコツがあります。シンプルに「パン」「あんぱん」などのキーワードで検索してもいいのですが、これだと個人が趣味で作ったパンの画像が引っかかることが多いです。ですから、「パン屋」というキーワードや「横浜パン」「福岡パン」など「地域名+パン」で検索すると、お店の情報が得られやすいと思います。
「匂い」もパン屋さん探しの重要な手がかり。旅先でパン屋さんの前を通りかかっていい匂いがしていたら、とりあえず入ってみるのもおすすめです。
なぜなら「おいしいパンは、いい匂いがするもの」だからです。 良質な発酵過程を経ると、パンはいい焼き色になり、いい匂いになります。手作りパン種(自家培養発酵種、いわゆる天然酵母)のお店だと、発酵の甘い匂いが漂ったり、マーガリンではなくバターを使っている店ではクロワッサンが焼き上がるときに、自然といい香りがするものです。
多種多様な「あんぱん」の世界
さて、地方のおいしいパン屋さんは数知れず。そのなかでも今回は「あんぱん」がトップクラスでおいしいパン屋さんに絞って紹介したいと思いますが、その前にあんぱんの現在についてもお話しさせてください。
一口にあんぱんといっても多種多様。分類方法もいくつかあります。
まず、あんこの種類で分けるやり方。
つぶあんぱん、こしあんぱんが二大勢力といえるでしょう。そのほか、白インゲンからつくる白あんぱん、青大豆や枝豆からつくる、緑色のずんだあんぱん、青エンドウからつくるうぐいすあんぱん、かぼちゃあんぱんなどがあります。
さらに、あんこに別の食材を加えたタイプもあります。コーヒーを混ぜた「コーヒーあんぱん」やホイップクリームを合わせた「ホイップクリームあんぱん」などが代表例です。
「あん」ではなく、生地による分類もあります。
もっとも一般的なのは、菓子パン生地のあんぱん。クリームパンやジャムパンにも使われる甘めでふっくらした生地です。
1874年にはじめてあんぱんを作った木村家のあんぱんは「酒種あんぱん」と呼ばれ、麹菌で発酵した生地を使用しています。
バターや卵をたっぷり使ったブリオッシュ生地やフランスパン(バゲット)生地のあんぱんも増えてきました。
また、最近では「あんバター」の台頭が目覚ましいものがあります。一般的になったのはここ10年ちょっとぐらいでしょうか。
その名のとおり、あんことバターを組み合わせた濃厚なパンですが、写真のように、バターがたっぷりのったものが多く、見た目にも迫力があり、インスタ映えで広まっている部分も大きいと思います。
また、自家製のあんこを使用するこだわりの店も増えています。豆の香りがしっかりしていて、素朴な味わいなので業務用のあんことは別のおいしさがあります。
そのほか和菓子屋から取り寄せたり、製あん所(あんこを作るメーカー)に特別なあんこを依頼する店も増えています。
このように、あんぱんの世界は日進月歩でどんどん変化しながら広がっており、興味が尽きません。そんなあんぱんの中でも特に食べてほしいと思う「地方のパン屋さん」を厳選しましたので紹介します。
遠くてもわざわざ「あんぱん」を食べに行く価値のある店
ヤッホーパン(埼玉・秩父):ほんわか食感あんぱん
店主の日比谷友美さんは大の山好き。なので山の近くの秩父の地に「ヤッホーパン」という名でお店を構えられたのだとか。
同店のパンは総じて、生地がほわっと、ほどけるように難なくちぎれていく食感が特徴です。
あんぱんの生地もとても気持ちのいい食感でしっとりやわらかく、しなっと沈む感じ。
さらに、生地からはフレッシュなバターのミルキーさも感じられ、まるで「あんバター」のようにあんこと生地の相性ばっちりのハーモニーが楽しめます。
あんこは日比谷さんが惚れ込んだ、岩手県一関(いちのせき)市の製あん所からこしあんを取り寄せています。このこしあんは豆の香りがあでやかで、口溶けがいいことが特徴。口溶けのいい生地とあいまって、いっしょに溶けていきます。
秩父は山や川遊びのメッカ。ぜひこの店であんぱんを買ってから、秩父のアウトドアに出かけてみてください。
パンラボYouTubeより
ルヴァン信州上田店(長野・上田):自家培養発酵種(天然酵母)のパイオニアのあんぱん
ルヴァンといえば、手作りパン種(自家培養発酵種、いわゆる天然酵母)専門店の草分け。東京の富ヶ谷に本店があり、その道では伝説的なお店なのでご存じの方も多いかと思います。
長野県上田といえば、真田家の根城(ねじろ)だった上田城が有名。ルヴァン信州上田店は戦国時代の面影を残す柳町の通りにあった古民家を改装したお店です。薄暗い木造の店内にでっかいカンパーニュ(田舎パン)がとてもなじむ素敵なお店ですが、こちらの隠れた名物があんぱん。
「なんでも手作り」が信条のお店らしく、豆の旨味を逃さず炊いたあんこは既製品にはない野趣があります。
生地は食パンにも使われるプレーンなもの。もっちもっちと弾力があり、長野の地粉(地元で収穫された小麦を元に、地元で製粉して作られた小麦粉)が、ゴマのような力強い香りを漂わせます。
素朴な生地と素朴なあんこが掛け合わされて、どこかなつかしい風味のあるあんぱんに仕上がっています。
イートインスペースとして利用できる畳敷きの部屋で食べるあんぱんは格別で、わざわざ上田を訪ねる価値がある一品です。
ルヴァン 信州上田店
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パナデリア シエスタ(神奈川・横浜):あんこの鉄人が作るあんぱん
店主の水谷優一さんは、あんぱんの名店として知られる「ベッカライ徳多朗」(たまプラーザ)の出身。その技術を受け継ぎつつ、独自であんぱんを追求してきた方です。
水谷さんいわく、「あんこは10年炊きつづけてやっとなんとなく分かるようになる」そう。
あんこはよく煮ないと皮が口に残ってしまいます。だからといって皮が破けるほど煮たら、豆の旨味が流れ出てしまう。
シエスタのあんこは、そのどちらでもなく、舌の上でやわらかな薄皮が破れ、旨味と風味がとろりとあふれだします。いうなれば、小豆カプセル。
その食感はまるでいくらのようであり、こしあんとつぶあんをいいとこ取りした”ハイパーあん”と呼ぶべきものです。
唇にぷるんと触れる口当たりのいい生地で、あんこの味を活かす控えめの甘さが絶妙。口溶けがよく、あんことシンクロして溶け合うことで快感を生むのも、おいしいあんぱんに共通する特徴です。
横浜へのドライブついでにぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
パナデリア シエスタ
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一本杉農園(栃木・鹿沼):小豆から栽培するパン屋が作るあんぱん
一本杉農園は週のうち3日はパン作り、残りの日は「農園」の名の通り農業を行っています。
自家製のあんこを作るだけでも手間がかかるのに、小豆を無農薬で育てるところからあんぱんを作っているのです。
もちろん収穫も自分たちで行い、乾燥させたあと、店主の福田大樹さんのお母さまが、さやから一粒ずつ取り出して、出来のいい小豆を選別しているというこだわりよう。
一本杉農園Instagramより
そんな小豆で作るあんこは、まるで味噌のように力強い味わい。小豆への愛情、手間を惜しまぬこだわりがこの濃厚な味を作り出しているのかもしれません。
なお、店舗は趣のある農家を改装して建てられており、併設するカフェではとれたての野菜を使ったランチもいただけます(訪ねる際は予約がベター)。
のどかな田園地帯の中にありながら、人が押しかけているのもうなずけます。
豊市(愛知・豊橋)地元製菓とコラボしたあんバター
あんバターが絶品なお店もひとつご紹介しましょう。
豊市は新幹線が停まる豊橋駅に隣接するショッピングモールにあり、豊橋をはじめとする「東三河地方の特産品×パン」をテーマとしたお店です。
こちらで売られている「丸八製菓のつぶあんバターサンド」は、「八雲だんご」で有名な地元の老舗団子屋・「丸八製菓」のつぶあんを使用しています。
あんこをはさみこむブリオッシュ生地がめちゃくちゃ秀逸で、さくっと心地よい歯切れを楽しめます。
一口食べると、まずバターや卵の風味に「とてもいいなー!」と思うやいなや、あんこがあふれ出てきます。口の中では、バターが溶け、あんこの甘みとバターのコクが爆発します。素材の風味を上手に生かしたあんぱんは、ここまでおいしくなるという好例だと思います。
豊市にはデリカテッセンやジェラート店も併設されており、地元の食材を使ったおいしい商品を買って食べられるフードコートになっています。
新鮮な地元産野菜なども販売しているので、おみやげとして買って帰るのもオススメです。
「あんぱんって似たり寄ったり」と思われていたかもしれませんが、今回ご紹介したように、「こだわりのあんぱん」は素材も味わいも多種多様です。「あんぱんって楽しい!」と、ちょっとでも感じていただけたらうれしいです。
あんぱんの中にはあんこだけではなく、作り手の人柄やその土地の味も見え隠れしています。だからこそ、僕にとってあんぱんは一つひとつ個性的ですし、「今度はこうきたか!」と感動や興奮を与えてくれる存在なのです。
あんぱんは多くのお店で売られており、お店ごとのおいしさや個性を発見しやすいパンでもあります。名店に限らず、旅先にあるスーパーのパン売り場でも、おいしいご当地のあんぱんでも、パッケージも含めその土地ならではのおいしさに出合えるでしょう。
次、ドライブに出かけるときは、旅先でのあんぱんとの出会いにどきどきわくわくしてほしいと思います。
Twitter:@ikedahiloaki
編集/はてな編集部
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