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エスカレーターは誰でも乗れる魅惑の乗り物。エスカレーターを楽しむ極意、まとめます
※掲載内容は公開日時点の情報です。現在と異なる場合がございます。
「エスカレーターは魅惑の乗り物」とはりきってタイトルを付けましたが、そもそも普段エスカレーターを「乗り物」として意識されている方は少ないかもしれません。どちらかというと、ちょっと階段より便利な建物の一部、ぐらいの認識でしょうか。もはや日常の一部として、誰もが意識することなく当たり前に乗っていると思います。
私はエスカレーターに注目しはじめて15年ぐらいのエスカレーターマニアです。鉄道マニアなどをはじめとする「乗り物」マニアの中でも、たぶん日本で5人ぐらいしかいないのではないかと思われる“マニアックなマニア”です。そんな私から、「乗り物」としてエスカレーターを楽しむとはどういうことか、じっくり紹介します。
※メーカーによっては「エスカレータ」と表記する場合がありますが、本稿では「エスカレーター」と表記します。
Blog:東京エスカレーター
Twitter:@tokyoesca
エスカレーターは「実用と娯楽の併用機関」
エスカレーターが誕生したのは1900年ごろ。20世紀が始まり、都市型の大衆社会へと向かう時代の変化に伴ってデパートや地下鉄が登場します。そこで大量の人を一気に上下に運ぶための手段として「動く階段」であるエスカレーターが発明されました。
日本では、1914年に開催された東京大正博覧会で、上野公園の第一会場と第二会場の間に設置されたものが初と言われています。
この実用性と娯楽性が共存する乗り物であることこそ、エスカレーターの魅力と言ってよいでしょう。
さて、現在の日本ではエスカレーターを製造しているメーカーは主に6社あります。世界的シェアを持つオーチス、シンドラー(2016年日本から撤退)の2社の他に、三菱電機、日立ビルシステム、東芝エレベータ、そしてフジテックの4社です。
日本のメーカーが独自に開発したエスカレーターもたくさんあって、エスカレーターマニアとして「日本に生まれてよかった」と思うことは多々あります(日本に生まれたからエスカレーターマニアになったのかもしれませんが)。
身近なところでは、欧米のエスカレーターは手すりがほぼ黒一色で、手すりが赤や青や緑など色とりどりなのも日本ぐらい。バラエティに富んだエスカレーターがある日本は、「実用と娯楽の併用機関」としてのエスカレーターを楽しむのにうってつけの国です。
では、特にどんなところに注目してエスカレーターを楽しめばいいのか、私が独自に定めた3つのパターンを解説します。
エスカレーターを楽しむために知っておきたい3パターン
1. 未来系エスカレーターで空中浮遊
まずは都市の再開発エリアでよく見られる未来系エスカレーターに注目。東京なら、品川や汐留、丸ノ内や日本橋、そして今なら渋谷が、エスカレーターの激戦区です。最新の高層ビルでは、エスカレーター自体が最新型であるのはもちろん、「ただ上下に移動するだけ」ではなく乗ることに驚きとおもしろさをもたらす「かっこいいエスカレーターの付け方」がされていることが多いです。21世紀型とか、(もう21世紀も始まって随分たちますが)「未来系エスカレーター」と私は呼んでいます。
現在、渋谷エリアで最も高い渋谷スクランブルスクエアの展望施設「SHIBUYA SKY」。屋外型のエスカレーターでは、建物として日本で一番高い場所に付けられているエスカレーターです。
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屋根がなくクリアな視界から、ゆっくりと楽しむ、都心の街並み。夜にはエスカレーター自体も美しく輝いて、夜景と共演しはじめます。
未来系エスカレーターといえば、大阪の梅田スカイビルも外せません。イギリスの情報紙『TIMES』で「世界の建物トップ20」として紹介され、海外からも注目されている建物です。下から見上げると、円形の空中庭園に向かってニョキっと伸びる、象徴的な2本のエスカレータートンネルが目に入ります。
35階で一旦エレベーターを降り、わざわざエスカレーターに乗り換えさせて展望台に向かう、まさに「乗ることを楽しむ」ためだけに付けられているエスカレーター。上下と水平の移動が同時に発生し、ゆっくりと宙を切って進むエスカレーターは、独特の「空中浮遊」体験ができる乗り物です。
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2. ゴージャスエスカレーターで貴族気分
主にバブル期に建設された建物に多い、お金のかけられた「ゴージャスなエスカレーター」にも注目です。その代表格は、先ほどちらりとご紹介した、世界で日本の三菱電機だけが製造している「スパイラルエスカレーター」です。
日本が世界に誇る曲がるエスカレーターで、普通のエスカレーターの10倍の価格と言われています。値段の面だけではなく、階段よりも空間を贅沢に使いラグジュアリーな気分を味わえるのも、エスカレーターの楽しみのひとつです。
横浜ランドマークタワーに隣接するショッピングモール、ランドマークプラザ。ここでこの曲がるエスカレーターに出会ったことが、私がエスカレーターにここまでハマるきっかけでもありました。
正面からのシンメトリーも美しいですが、上から見下ろして美しいカーブを楽しむことも忘れずに。エスカレーターが曲がることになんの実用性があるかというと、特にないのですが、その贅沢さこそがスパイラルエスカレーターの存在価値だと私は思います。
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こちらは梅田にあるHERBIS PLAZA ENT(ハービスプラザエント) の、ステップ側面が光るエスカレーター。建物全体に漂うゴージャスな雰囲気に負けない特注品です。非常に高級感のある空間で、これに乗れば誰もが主役気分に。いつもどこからかいい匂いが漂っています。
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3. レトロ・レアなエスカレーターを愛でる
エスカレーターマニアだけでなく、デパートマニアやスーパーマニア、昭和レトロマニアからも愛されている存在、「丸ボディエスカレーター」についてもご紹介しましょう。「丸ボディ」は私が勝手に付けた名称で、「丸っこいボディ」の略。1960年代〜70年代に建てられたデパートやスーパー、駅前ビルなどに残っている、レトロなエスカレーターのことです。
手すりの下の部分がガラス製で湾曲していて、華やかに照明の仕込まれたエスカレーターは、日本メーカーがデパートからの要望に答えて独自に開発した形。今では製造されていないため、新しいものに付け替えられたり、建物自体が閉館したりでだんだん数が減っている貴重な存在です。レトロかつレアなエスカレーターに出会えたらとてもラッキー。心から愛でてください。
「丸ボディエスカレーター」を愛でるならまず訪れてほしいのが、こちら。名古屋栄三越です。地下道からの入り口に貴重なエスカレーターがちゃんと光った状態で3基も並んで付けられている、今となっては非常に珍しい場所で、エスカレーターファンの聖地となっています。
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名古屋にはもう1箇所、聖地が存在します。こちらは名古屋駅前にある名鉄百貨店本店のレストランフロア。「丸ボディ」ではないものの、世界でもはやここにある2台だけしか残っていないと言われる大変珍しいエスカレーターがあります。
最大の特徴は、このエスカレーター下に垂直に吸い込まれていく、手すり。「垂直落下手すり」と勝手に呼んでいますが、初めて目撃したときは、エスカレーターの概念が覆されるほどの衝撃を受けました。古いビルにひっそりと、私も存在を知らないようなレトロなエスカレーターが残っていることもあるので、ぜひ見つけていただきたい(そして報告していただきたい)と思います。
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「わざわざ乗りに行く価値あり」地方にあるエスカレーター
「大量の人を一気に運ぶ」ための乗り物でもあるエスカレーターは、大都市に集中して設置されます。ここまでご紹介してきたものも東京、大阪、名古屋という都市の中心部にあるものでしたが、日本はエスカレーター大国。全国津々浦々、まだまだ乗りに行ってほしいエスカレーターはたくさんあります。
ここからは、地方の「わざわざ乗りに行く価値があるエスカレーター」を紹介します。ぜひ、ドライブのついでに足を運んでみてください。
恐竜の背骨のような形のロングエスカレーター(福井県 福井県立恐竜博物館)
福井の山の中にある、建築家・黒川紀章氏が設計した福井県立恐竜博物館。外観は恐竜の卵のような形をしており、中へ入ると、展示室の入り口まで真っ直ぐにロングエスカレーターが貫いています。上から見ると恐竜の化石の背骨のよう。ここまで大胆にロングエスカレーターが使われている建物は国内ではなかなか少なく、一度は見に行って損なしのスポットです。
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贅沢過ぎるシンメトリー空間(鳥取県 米子しんまち天満屋)
鳥取県米子にあるデパート・米子しんまち天満屋。ただでさえ空間を贅沢に使うスパイラルエスカレーターが、これでもかというほど広大な吹き抜け空間にゆったりと設置されたすごい場所です。スパイラルエスカレーター全設置箇所リストを入手し国内巡礼の旅をしている最中に訪れたのですが、ちょっと度肝を抜かれました。シンメトリー配置はスパイラルエスカレーターの定石なのですが、シンメトリーはシンメトリーでも点対称に置かれているなんていうのは日本でここだけです。
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元「東洋一」のエスカレーター(徳島県 エスカヒル鳴門)
徳島県鳴門の渦潮を見るための展望台があるエスカヒル鳴門。入り口から展望台へと続くエスカレーターは当初「東洋一のエスカレーター」と呼ばれていました。現在は日本で2番目に長いエスカレーターで全長は68メートル。現在の日本一長いエスカレーター(香川のニューレオマワールドにある「マジックストロー」。長さ96メートル)が踊り場付きであることを踏まえると、「先が見えなくなるぐらい長い感」を味わいたいならこちらがおすすめ。乗り口についている渦潮マークもかわいいです。
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エンドレスエスカレーター体験(和歌山県 ホテル浦島 スペースウォーカー)
かっこいい名前が付けられているエスカレーターは私の好物なのですが、和歌山県のホテル浦島には「スペースウォーカー」と実に洒落たネーミングのエスカレーターがあります。
とにかく長いエスカレーターを体験してみたい方におすすめのエスカレーターで、乗り継ぎ式ではありますが、全長は154メートル。高低差は77メートルで所要時間は5分以上とかなりの規模を誇ります。
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天空まで連れて行かれそうな不思議なトンネル(静岡県・MOA美術館)
静岡県熱海にあるMOA美術館の長いエスカレーター。海を一望できる建物入り口まで、照明が次々といろんな色に変わる不思議なトンネルの中を通っていくのですが、ゆっくりと天に向かって進んでいく感覚がとっても幻想的。エスカレーターに乗っているときの独特な浮遊感覚をうまく生かしている場所だなぁと感じます。
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レアもの好きにおすすめ(滋賀県 平和堂彦根銀座店)
レアもの好きの人におすすめしたいのが、滋賀県にある平和堂彦根銀座店。商店街の中にある一見ふつうのスーパーなのですが、1階から2階には「滋賀県初のエスカレーター」が展示されています。
こちら、滋賀県初というだけでなく、主に関西圏でしか目撃情報のないレアなメーカー「MASUDAKIKAI」製ということをお見逃しなく。プレートに「MASUDAKIKAI」としっかり刻まれています。そして2階から3階には、「丸ボディ」エスカレーターがあるのですが、こちらのプレートには「TSUBAKIMOTO」の文字が。「TSUBAKIMOTO」のエスカレーターは今のところここでしか目撃情報のない非常に貴重なものです。
※どちらも現在は動いていないので、スーパーにご迷惑にならないように見に行きましょう。
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「一生に1回は見たい!」海外のエスカレーター
気分が乗ってきたので、一生に1度はぜひ見てほしい、海外のかっこいいエスカレーターも紹介します。
エスカレーターの総本山(イギリス ロイズ・オブ・ロンドン)
ロンドンにある世界的な保険市場「ロイズ・オブ・ロンドン」。ふだん一般公開はされていない建物で、年に1度だけ開かれる「Open House London」というイベントで見学をすることができました(2012年当時)。
設計者は私がエスカレーター好き建築家としてマークしているリチャード・ロジャース氏。エスカレーターが特徴的なパリのポンピドゥー・センターの設計にも携わったロジャース氏は、エスカレーターやエレベーター、柱や配管などの普通は目立たない構造をむき出しにする「現代ゴシック」の代表的建築家です。
ロイズ・オブ・ロンドンは、建物中央に上下2基ずつのエスカレーターが積み重なるようにそびえ立つ、エスカレーターが主役の建物。それだけにとどまらず、エスカレーター側面がスケルトンになっており、内側からライトアップするという、エスカレーターの構造自体を「しっかり愛でる」ための工夫がされています。まさにエスカレーターマニアにとって総本山と呼べる建物なのです。
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木製エスカレーター最後の地 (ベルギー 聖アンナトンネル)
ベルギーの都市、アントワープにあるシュヘルド川の地下を通る「聖アンナトンネル」。エスカレーターを乗り継いで地下へと降りていくのですが、なんと木製のものが残っています。日本では残念ながら戦前に作られたエスカレーターは残っておらず、木製エスカレーターを見たいなら海外に出るしかありません。
他にはニューヨークのメイシーズデパート、ロンドンの駅に数基が残っていますが(全て訪問済み)、聖アンナトンネルのものはその中でも状態がかなりよく、長さ、大きさも立派です。
木製エスカレーターは近い将来、博物館などに展示すべきだと思っているくらいで、誰もが自由に乗れる今の状態は大変貴重です。生きているうちにぜひ乗りに行っていただきたいと思います。
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いつもと違う視点でエスカレーターを楽しんでみよう
途中から自分がどんどん興奮してきてしまいましたが、どうでしたか?普段何気なく乗っている「短い距離を楽に移動する乗り物」から、「実用と娯楽を兼ね備えた乗り物」として魅力を感じていただけたでしょうか。
エスカレーターは特別な免許もいらず、多くの場合はお金もいらず、誰でも自由に乗れるもの。「エスカレーターを趣味にしてみようかな」と思えばすぐに始められるハードルの低さも魅力だと感じています。
ここで紹介した以外にも、多種多様な魅力あふれるエスカレーターが全国各地にあります。この記事が、「お、このエスカレーター、ちょっといいな」と気づくきっかけになったら幸いです。
編集:はてな編集部
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