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「年代問わず話題にできるのは“景色”です」 この道11年のバスガイドに聞く、はとバス流・車中のコミュニケーションとは?
日々、バス1台(数十人)の乗客に相対するバスガイド。あらゆる相手、状況に対応し、楽しい場を作る話術と表現力が求められます。いわばコミュニケーションのプロであるガイドさんは、どんなことを心がけて仕事に臨んでいるのでしょうか?
今回お話を伺ったのは、はとバスのバスガイド・大曲明日香さん。この道11年のベテランです。最近は新型コロナウイルスの影響でなかなかツアーに乗務できないそうですが、大曲さん自身のガイドテクニックに加え、はとバスに代々伝わる「教本」、さらには、全国を旅してきた大曲さんがオススメする観光地まで、幅広く語っていただきました。ドライブ中に役立ちそうな「車中でのコミュニケーションのコツ」についても伺っています!
(※取材は、新型コロナウイルス感染症の予防対策を講じた上で実施しました)
ただの工事現場を「特別な風景」にする一言
──大曲さんは、どのようなツアーに乗務されているのでしょうか?
大曲さん(以下、大曲) はとバスのガイドは最初は東京都内のツアーに乗務し、順次研修して担当エリアを増やしていきます。私は入社11年目で、担当エリアは福島から名古屋まであり、日々異なるさまざまなツアーに乗務しています。
──1日の仕事の流れは、どういった感じなのでしょうか?
大曲 ツアーの目的地や内容にもよりますが、東京都内の定期観光ツアーの場合は、午前と午後の2回を担当することもあります。まず朝7時ごろに出勤し、バスの清掃と健康チェックを行います。1回目のツアーが朝から、2回目が夕方からで、会社に戻ってくるのは夜になってから。最後にまたバスを清掃して終了です。目的地が遠い場合は、早朝の5時くらいに出社してツアーを行い、会社に戻ってくるのはやはり夜になることが多いですね。
──その日によって目的地が違うということですが、その都度、コースにまつわる情報をインプットするんですか?
大曲 そうですね。ツアーのテーマや目的地によって、お客様が求めているものは異なります。温泉がご目当ての場合もあれば、食事や買い物、あるいは景観や歴史がメインの場合もあって、私たちのガイドもお客様が求めるものに合っていないとご満足いただけません。
ですから、前日までに頭の中で、ある程度の構成は組み立てておく必要がありますね。ただ、担当エリアの基本的なデータはあらかじめ頭に入っていますので、それを復習しておくような感じです。
──でも、担当エリアも幅広く、各地の情報を記憶しておくだけでも大変そうです。どのように勉強されていますか?
大曲 必ずおさえておくべき名所や歴史、観光地などは私たちが「教本」と呼ぶ、はとバスの教材を使って、頭に叩き込んでおきます。
ただ、東京や有名な観光地などでは新しいスポットが次々と誕生しますので、該当エリアを担当している先輩などから情報を共有してもらうことが多いですね。あとは、実際にその場所を旅行されている方のSNSや口コミをリサーチして、何を見ているか、何を食べているかチェックしたりしています。
──例えば、突然工事が始まったりして、ルート上の景色が変わることもあると思います。そういうところまでチェックしているのでしょうか?
大曲 しますね。特に東京は変化が激しく、急に新しいビルができたり、なくなったりすることも多いです。おっしゃる通り工事などで、景色が突然変わってしまっていることもあるんです。
──その場合、どうするんですか?
大曲 そこでそのまま通り過ぎてしまうと「工事中の風景」でしかありませんが、私たちが一言「この場所に、○○ができるようです」と付け加えられたら、お客様にも喜んでいただけます。もしかしたら、それだけで「今日はあれが聞けてよかった」と、特別な思い出になるかもしれませんよね。
ですから、気になる場所を見つけたら、すぐに調べるようにしていますね。途中で休憩を挟むツアーの場合は、その間に調べておいて、その日のうちにお伝えするようにしています。
はとバスに伝わる「教本」は、毎年パワーアップ
──「教本」というものが気になりますが、どういった内容ですか?
大曲 バスガイドの研修に使われる、各地の情報や案内文などが書かれた教材です。東京都内だと300ページくらいのボリュームになりますね。観光地の概要や、「この場所ではこういう説明をしましょう」といったことが書かれている、基本的なマニュアルのようなものです。
大曲 他社さんでは出版社から出ているものを使うケースもあるようですが、はとバスの場合は代々、自社で作った教本を使っています。だから、多少なりともはとバスのカラーが出ているのではないかと思いますね。
──教本は毎年改定されるのでしょうか?
大曲 基本的には新人研修で使うことが多いので、年に1回は必ず改定します。バスガイドの中で経験の長い数名の「トレーナー」が添削する形です。なくなったものや新しくできたものをチェックするのはもちろんですが、その都度、お客様に楽しんでいただける内容になっているか検討しながらブラッシュアップしています。
──それを頭に叩き込んで、案内していくと。
大曲 教本を暗記してしゃべるだけでもダメで、お客様に耳を傾けてもらえるような伝え方をしなければいけません。表情もそうですし、話し方に少しアクセントをつけたり、ユーモアを交えたり、盛り上げどころの「山」を作ったり。そこは、バスガイドの腕の見せ所なのかなと思います。
──それは経験を積んで学んでいくしかない?
大曲 はい。研修で基礎は教わっても、「場の空気づくり」みたいなものは現場で学んでいくしかありません。教本に「ダジャレの言い方」は書いてありませんからね(笑)。ちょっとしたユーモアなんかもいくつか試してみて、お客様のウケがよかったものをストックしていったり、そうやって少しずつ引き出しを増やしていくような感じですね。
──ちなみに、大曲さんの鉄板ネタはありますか?
大曲 鉄板……。例えば、これから行く観光地での自分自身の失敗談なんかを、笑い話としてお伝えすることはよくありますね。そうすると、その観光地を見学されてバスに戻ってこられたお客様から、「さっきの話のアレ見てきたよ」とお声がけいただけたりして、その後の案内も盛り上がるような気がします。
──バスガイドさんへの親近感も生まれるし、すごくいいコミュニケーションですね。
大曲 でも、私よりずっとトークがうまいバスガイドはたくさんいます。先輩後輩問わず、そうした場づくりがうまいガイドは、本当に尊敬しますね。
そもそも私がバスガイドになりたいと思ったのも、小学生の頃の修学旅行で出会ったガイドさんの素敵な案内に憧れたから。話をじっと聞く集中力がない小学生に対しても、ぐっと心をつかんでしまうような振る舞いや話し方をされていて、かっこいいなと思ったんです。それで、私もバスガイドになりたいと考えました。
車中でのコミュニケーションのコツとは?
──大曲さんが大勢のお客さまとコミュニケーションをする時に意識されることはありますか?
大曲 今でも人前で話す際に緊張はするのですが、バスには奥行きがあるので、遠くに座っている方に向けて話したり、大きく「8の字」を描きながらお客さまと目線を合わせたりなどして、緊張をほぐしています。
──車中での会話のきっかけの作り方、話の広げ方で、意識されていることやコツがあれば教えていただけますか?
大曲 私たちバスガイドは、バスに乗って景色が変わっていく中で、その景色にちなんだ会話をしています。
老若男女問わず会話のきっかけになるのは、景色のほかに、気候、季節。ドライブの車中でも、そのような話題であれば、誰でも話せる内容ではないかと思います。もし「会話が苦手だな」という方は、その時目で見ている景色に合わせて会話を広げていくとやりやすいかもしれませんね。
全国各地を旅するバスガイドさんのオススメ観光地は?
──バスガイドさんはいろいろな場所へ行けてうらやましいと言われることも多いと思うのですが、実際のところ、ガイド中に「旅」を楽しむ余裕はあるのでしょうか?
大曲 もちろん仕事としての緊張感と責任感は保ちつつですが、自分自身もその場所を楽しむように心がけています。例えば、観光地で気になる名物グルメを事前にチェックしておいて、実際に食べてみておいしければお客様にも勧められますよね。自分が感動したものをお伝えした方が信憑性があるし、お客様もグッとくると思うんです。
──では、大曲さんの特にオススメのスポットを教えていただけますか?
大曲 私は長野などの山の景色が大好きで、特に上高地がお気に入りです。山があり、川にきれいな水が流れている光景に非日常を感じて癒やされますね。特に山開きをした直後の6月って、まだ残雪があって、それが新緑と交わることで本当に絵に描いたような美しい景色になるんです。そこにいると、全てが浄化されるような気分になりますね。
──さすがガイドさん。案内が見事ですね。ものすごく行きたくなりました(笑)
大曲 ありがとうございます(笑)。上高地はちょっとしたハイキングルートもあって、40分くらいでぐるっと回れるところや、途中で食事を挟んで3時間くらいじっくり歩けるところもあります。新鮮な空気を感じながら川沿いを歩き、植物を愛でているだけで本当に気持ちいいですよ。
──ありがとうございます。では最後に、コロナ禍の状況が改善された際に「乗ってみたいな」と思った方に向け、あらためて「はとバスの楽しさ」をご紹介いただけますでしょうか。
大曲 はとバスツアーでは、多種多様なコースをご用意しています。例えば東京だけでも、多い時には100コース以上。中には東京の人でも知らないようなスポットをご紹介しているコースもありますので、遠方の方だけでなく首都圏の方も「地元を再発見」という目線で楽しんでいただけるのではないでしょうか。
また、同じルートでも、定期的にテーマやスポットを変えたり、それに合わせてバスガイドの案内も調整したりしています。そうした変化や進化も感じていただけるとうれしいですね。
編集:はてな編集部
取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
撮影:小高雅也
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